Electric Graffiti


5th Album

1. Marking Point
2. ジャンクフード(世界の食卓)
3. レイラは唄う
4. Welcome to Wonderland
5. JET LAG
6. エレクトリック
7. 終わる事無いイメージ
8. Blackbird
9. 成長
10. 32日
11. 空と踊る男

2009.5.20 iLHWA RECORDS DQC-236 ¥2,500(tax in)

Electric Graffiti - 杉本恭一

●さて、ここに杉本恭一の通算5枚目となるフルアルバム、『Electric Graffiti』が完成いたしました。楽曲もさることながら、全体的な構造自体も非常に面白いアルバムです。分りやすく言いますと、まず、前半中盤後半と大きく3つに分かれている。

「そうそうそう。俺のワンマン・ライヴん時のような流れだよね」

●まさに。パンク&ロックンロールでどかーんと始まってガーッとブッ飛ばし系の曲が連打され、続いてサイケデリックで怪しくも麗しいめくるめく世界を構築し、そして最後はアンコールがかかったかのようにアコギ弾き語りで再登場、みたいな。

「うん(笑)。実はもうちょっと(楽曲の位置を)混ぜることも考えたんだけど、そうすっとロックンロールもサイケも中途半端な感じになるなと思って、それならいっそのことライヴ的な流れでいってしまおうと思ったんだよ」

●なるほど。そしてわたくし的には前半のロックンロール・ナンバーに激シビレなわけですが、中でも冒頭1曲目“Marking Point”は1曲目に相応しく、期待感を激しく煽るナンバーでした。というのも、様々な要素が次々と顔を出す変幻自在曲でもあるわけで。

「だけん、この1曲でアルバム全部を先に聴かせちゃおうっていう意図があったんだ」

●ああ、なるほどなるほど。ただ、それにしても謎なのは、何故これが“MarkingPoint”という曲名なのかというーーそもそも前の前のアルバムタイトルっすよね?

「それについてはだな、話せば長いが、そもそもは俺の勘違いから始まっていて……要はさ、レッド・ツェッペリンのアルバム・タイトルの曲が、次のアルバムに入ってたんよ。で、高校生の時にそれを聴いた俺は、『ずいぶん洒落たことをやるなあ』と感心したわけよ。だけん俺は毎回、それを歴史的に真似してきたわけ。LA-PPISCHん時なら、『からくりハウス』ん後の『make』で“karakuri”っていう曲を入れたり、analersん時は『AnaBoliCsteroiD 』っていうアルバムの次の『spamming』に“Anabolicsteroid”っていうテーマナンバーを入れたわけ。んで、自分(ソロ)では何にしようかな、って思った時に、前の前のだけど、この“Marking Point”にしたんよ。たださ、そのおおもとのツェッペリンのは、単に前のアルバムの時の未発表曲だったっていう事実を、まあ大人になってから知るわけよ(笑)。知ったんだけど、でも、俺はそれをカッコいいと思ったから、前の作品のタイトルを次のアルバムのテーマに用いるってことをLA-PPISCHでもanalersでも自分でもやったというわけだ!」

●はい(笑)。というわけでまずは前半ロックンロール・ナンバーから解説していただこうと思うのですが、2曲目“ジャンクフード”は非常にアッパーなエイトビートの曲で、歯切れ良い縦割りが大変痛快。また、本作のリードナンバーでもあります。

「うん。今まではギターのフレーズでリフを作ることが多かったんだけど、最近ちょっとコードワークのリフも面白いなあと思いはじめてて。で、この曲とあと“JET LAG”もそうなんだけど、そうやって作った曲だね」

●そして、この曲にはピストルズでもクラッシュでもなく、あえてダムドの匂いを感じ取るところでもあったんですが。

「ははははは。まあ、こういう曲は永久に、十代の頃から何十才になろうが永久にカッコいいってことなんだよな(笑)」

●ええ。で、前作『マグネティズム』ではニューウェーヴへのオマージュというか、そこらの若いもんが打ち出すニューウェーヴとは格が違うんだぜ!的な、現代のニューウェーヴがありましたよね? で、今作ではそこからまた更に溯ってUKオリジナルパンクを現代に取り入れたところがあったのでしょうか。

「うーん。音楽が何周もしてる中でさ、最近また洋楽でも、若いバンドがそういうことやってるじゃん。ってところからの影響もあるんだと思うよ。だから、自分的には逆に現代的な感覚でストレートなもんを作ったっていうか。とにかくまず、懐古ではない」

●もちろんもちろん。その辺の前を見据える感覚はしっかりと楽曲に表れています。けれども、同時に後方もちゃんと確認していると思うんですよ。そしてその辺のスタンスは実は歌詞にも表れている。例えば4曲目“Welcom to Wonderland”では「昭和想えどヨカ未来へゴー!」というフレーズがあるじゃないですか。

「はははははははははは!」

●コミカルに書いてるけど、凄くいい言葉だと思ったんですよ。

「まあさ、新しい音楽とか、いいと言われる音楽とかが出た時に、ちゃんと聴いておきたいと俺は思うわけよ。反応できるものもあれば、できないものもあるよ。でも、それも含めて知っておきたいという気持ちがまずあるんだ。で、そういう新しい曲、新しいバンドの中には、自分がかつて聴いてきたものの匂いとかが凄くしたりする。でも、『この人たちはそれを知らずにやっているんだろうな』というのも分る。そんで俺は、というか俺も、そういう感覚になりたいと思うんだ」

●ん、ん?

「だけん、かつて俺たちが体験してきたものだったとしても、それを全く新鮮に、今の新たな音楽として体験したいっていうか、鳴らしたいという」

●ああー。でもそれ、杉本さんは常にやってませんか? 懐古だけに走るようなことは、今までも一貫してやってないわけだし。

「うん。まあとにかくさ、サイケが流行るとヒッピーファッションが60年代そのまんまみたいな感じでまた流行ったりするじゃん。その、そのまんまっていうのに抵抗があるんだよね、どうしても」

●復古はしても、そこに現代なりの感覚が加味されてないといかん!ということですよね。そういった感覚は今作の全体を通じても発されていると思うんです。例えば、昔はテクノが流行れば世の中はテクノ、パンクが流行ればパンクというように、世の中のメインの流行は決め撃ちで1つだったじゃないですか。今はより選択肢が広がっていて、それこそテクノもヒップホップもメタルもパンクもサイケも、それぞれが好きなように好きなもの聴いて好きな格好していても、別に自然な状況になっている。っていう混沌具合が、本作の中にもあると思うんですよ。

「ああー、そういうのはあるね(笑)」

●昔は、いろんなジャンルの音が1つのアルバムに入っていると、「わかりずらい!」とか「もっと統一しろ!」とか言われたものだけれども。

「それ、ずーっと言われてきたけんね、それこそLA-PPISCHん頃から(笑)。でも、結局これが俺のバランスなんだよな。俺はこれぐらいのバランスじゃないと……だけん、実を言えば今回、曲がいっぱいあってたい、1つの方向にまとめようと思えばまとめられるだけの曲はあったんだよ。けど、今回はそういうものにはしたくなかったんやな」

●おおー。けど、そんなに曲があったなら、いっそのこと全然方向の違うアルバムを3枚同時リリースとかもできたんじゃありませんか?

「そんなっ、アルバム1枚作るだけでもこんなに大変なのに、想像するだけでもゾッとするようなことをお前はまた軽々とおっ!」

●わあっ、ごめんなさいごめんなさい、とにかく杉本さんにとって、このワイド感は切っても切り離せないものであると!

「そう! でも、俺の中ではちっともワイドじゃないんよね。これで当然というか、これが俺のバランス!!」

●はい。で、話を戻しまして3曲目“レイラは唄う”。これは前半の中では珍しく、サイケ調も取り入れたR&Rナンバー。しかもニューウェーヴ感も交じっており、またメロディーワークは杉本さんの王道感もあるというポップナンバーです。1~2曲目でハードが続いたところで、この曲を3曲目にしたのはどうしてなんですか?

「4曲目の“Welcome to Wanderland”へ流れをうまく繋げようと考えた結果だな。この曲は同じロックンロールの中でもポップだったから……そうでもしないと、とてもじゃないけど4曲目に繋がらないし、入れられないと思ったんだよ4曲目を(笑)」

●ああー、明らかに浮いてますもんね、4曲目は(笑)。

「で、レイラはもうライヴでやっててこなれてるし、非常にポップでもあるから、ここに持ってきたんだ」

●はい。ただこの曲で不思議だったのは、実は歌詞の内容なんですよ。非常に気の弱い、消極的な女性が描かれているじゃないですか。そしてその女性を優しく厳しく励まし叱咤する男性も描かれているわけですが……ぶっちゃけ、杉本さんの周りにこういうタイプの女性って、いなくありませんか?

「ああー、なるほど。実はこの曲の歌詞は、最初はパロディーの一貫として考えてたんだよ。要は、“愛しのレイラ”をもじって“いこじなレイラ”とか(笑)、そういうくだらないことを考えて作り始めたんだ、最初は。けど、出来上がった曲のメロディーが、そっちのフザケた方向を要求してなくて。で、相当いろいろ(歌詞を)考えて、実際実在のレイラの話、エリック・クラプトンとジョージ・ハリスンという二人のギタリストの狭間にいた女性の話も含め、とにかくパロディーを描こうと頑張ったんだけど……結局全然違う方向へいってしまったという(笑)。歌自体がそっちの方向に対して『違うよ』って主張したんだよな」

●ああ、そしてこういう方向にはなったが、元ネタのレイラとうい名前だけは残った。

「そうそうそう(笑)。で、ばってんここにあるのは自分の両面という部分もあったり……」

●そうか、これ両方杉本さんなんだ!?

「いやいや俺て言う部分もあるかもしれんし?登場人物を男と女にしてるけど、一人の人間の両面て考えると面白くないか」

●うわー、面白い、面白いっすねそう思って聴くと! うん、確かに杉本さん、凶暴なようでいてすごく繊細という非常に複雑怪奇な面倒くさい性格してますもん、ああそうか、そうだわ!!

「…………まあ俺も、そういう自分に大分長いこと付き合ってきたわけだから、馴れちゃいるけど、我ながら面倒くさいよ(苦笑)」

●ははははは。さあそして問題の4曲目、“Welcome to Wanderland”。非常にアッパーかつアグレッシヴな、なんとスカナンバー!コーラスも豪快で男らしさが漲っていると同時に、ユーモラスかつキュートでもあってもう最高!!

「この曲はね、実は筆頭ボツ候補だった。さすがにこの歳でこんな曲って……もうダメなんじゃない?っていう(笑)」

●残ってくれて良かったです本当に。私、大好きですよこれ! つかこれ大事ですよ!!

「でも、ギリギリまで入れるかどうするか悩んだんだよ。ただ、デモ聴かせるとみんな喜ぶから……レコーディング・エンジニアの松本大英にも恐る恐る聴かせたんだけど、見事にひっくり返って喜んでさ、『ワンダーブックに入ってそうな曲だあ! リックサックとか彷佛させるよね。つうかこれ、中込が聴いたら喜びそうだあ』って、すごく嬉しそうに語り出すもんだから……その大英の感想をそのまま歌詞にしました」

●そーれーでーかーっっ!!いや、楽曲は好きなんですが、このフザケた歌詞は一体なんだとこれから突っ込もうと思ってたんですよ、何ですかこの「メガネメガネとナカゴメ転んでも」って!

「(聞いてない)んで、ワンダーブック辺りのキーワードをいろいろちりばめたんだけど、入れてる内に何故かゴールデンハーフまで出てきて、もうどんどん意味不明に!」

●ほんとにぜんぜん分りません?。

「でまあ、いつも1曲はあるトンデモナンバーに仕上がったわけだが(笑)、とにかく言えることはさ、前の『マグネティズム』からいろいろ経過してさ、LA-PPISCHをやったことや、いろいろあったことを全部経過して……(この曲は)やろうかどうしようか悩んだけど、でも、これをやったらお客さん達も喜んでくれるかなあと思ったんだよ。そんでやることにしたんだ。で、お前の名前を入れたのは単にいやがらせだが、実はお前ではないかもしれない。メガネのナカゴメさんは他にもたくさんいるだろうからな、はっはっは!」

●なんだそれ。

「あとまあ、歌詞に熊本弁を使ったのは、何気に多分はじめてだな。“KUMAMOTO”でも、歌詞部分には熊本弁使ってなかったし」

●おお。そしてさっきも言いましたが、この歌詞にある「昭和想えどヨカ未来へゴー」は本当にいい言葉だと想いました。今作を集約する言葉かもしれないとすら思います。

「ありがとうございます(笑)」

●はい、では5曲目“JET LAG”。この曲はワイルドなガレージナンバー、ひたすらカッコいい曲です。

「こんだけバカバカしいことした後だから、ここで正統派にカッコいいものが来るべきだと思ってここに入れました、という俺の気持ちも曲順だけで汲み取れるやろ?(笑)。とにかくもうほんとに4曲目がアレだっただけに、もうこうするしかなかったんだよ?」

●ははははは。でも、結果的に良かったですよね。これだけ落差があると、お互いの曲をより引き立たせますもん。3~4曲目しかり、4~5曲目しかり。

「そうだね」

●また、この5曲目は、一見シンプルなようでいて密かに面白いナンバーでもあると思ったんですよ。というのも、こういったタテ割りタイプの曲としては珍しく、余韻を残すような作りになっていたり。

「そうだね。だけん“ジャンクフード”よりちょっとニューウェーヴ感は強いかもしれんけど、気持ちは同じようにコードリフで行くみたいなところで作った曲で、そんでまあ、正統にカッコいい曲だと自分でも思ってるよ。俺の曲の中ではね(笑)」

●で、この5曲目までがアッパーサイドというか。

「うん、ロックンロール・サイドだね、大きく別けると」

●そして6曲目“エレクトリック”で、かなり驚かされたんですよ。予備知識なしに聴くと、ここで相当驚く作りになっている。

「いきなし変えますよ、って感じでバーンっと入ってるからね。ここで一回皆さんの脳を、また極端な方向へ導くために(笑)」

●ええ。そしてここからは杉本さんが通ってきた80年代のネオサイケ、ネオアコ、さらにはビートルズ的なものまで含めた打ち出しが見られる。特にこの“エレクトリック”では杉本さんの歌い方までもがガラリと変わり、非常に美しいヴォーカルで聴かせてくれるわけです。

「この曲はね、最初はもうちょっと後ろの方に持ってこようと思ってたんだけど、でも、切り替えには一番いいかなと思って……ほら、俺の好きな方向って、極端から極端に向かうってところがあるやん。それにはこれが最適だと思ったんだ」

●前の3曲間の落差も相当なものがあったわけですが、さらにガーン!っとさせる楽曲を、あえてここに配置したという(笑)。

「そうだね。まあ俺、ガーン!っとさせるのも好きだから(笑)」

●そしてこの6、7、8曲の流れがまた、非っ常~に美しい。

「そう、この3曲が俺の中でのサイケサイド。しかもそのサイケサイドも7、8と曲が進むに連れ、だんだんアッパーになってゆくという、ムフフフフフフ!」

●うはははは。いや、まさにそこ、わたくし的にはそこが非常に大事な部分でして。

「大事やろ?ウフフフフ」

●しかも加えて8曲目は、なんと“Blackbird”なわけですよ。LA-PPISCH中期の大名曲を、アレンジも新たにどかーん!これはどういった経緯で入れることになったんですか?

「これはもともと洋一がライブでやりたいと言い出して、それで自分のライヴでやるようになったんだけど、そしたらそれが非常に出来がよくて、『いつか入れようかな?』みたいに思ってたんだ。それで今回、こういったサイケナンバーが出来て、その流れをシメるにはちょうどいいんじゃないかと思ったんだよ」

●なるほど。でですね、今年2月のダイノジロックフェスで、中込はDJと共にVJも頼まれたんですよ。そんでそのVJの方で、ひたすらLA-PPISCHのPVやらライヴ映像やら秘蔵映像やらを掛けまくってたんですが、司会を担当してた吉本の男の子が「これカッコいいっすね、これカッコいいっすね!」と興奮し、また、たまたまそれを見ていたロッキングオンジャパンの兵庫慎司も「あの曲カッコいい! なんて曲?」っと大反応を示したのが、この“Blackbird”だったんです。ということが割と最近あったため、今回の再収録にさらに盛り上がってしまったんですよー。

「いい曲だよね。まあ、気付かれずに終った曲だったが(笑)」

●あわわわ。いやでも、意外と耳にしてない人が多かったのは勿体なかったわけですからちょうどよかった! しかも曲のみならず、歌詞も最高にカッコいいと思うんですよ。

「曲も歌詞も、俺の好きな俺ワールドなんだけど、ただそういう曲ってシングル曲になかなか成りえた試しはなかったんだけど。だけん、そういう意味でも結構特別な曲なんだよね」

●ああー、そういう謂れもあったんですね。

「まあ、セルフカヴァーって難しいんだけど、この曲に関してはライヴでやってたっていうのもあって、自然な形で再び入れることができて、自分でもよかったと思う」

●はい。あと、順序が前後してしまいましたが7曲目“終わる事無いイメージ”。この曲はミドルアッパーなサイケ調ロックンロールですが、マーブル模様を描きつつも非常にシャープな、サッパリとした印象を醸すのが、また大変不思議な楽曲で。

「うん、確かにサッパリしてるな」

●何と言うか、マーブル模様の色みの部分が、原色ではなくて淡色調、みたいな。

「ああ、ああ。分る分る。俺の手法、クセもあるから、一見すごくサイケデリックなんだけど、でも実は、普通にロックなギターワークだったりするんだよね」

●その辺が楽曲の、この不思議な感じに繋がっていると。で、6、7、8のこの美しい流れを経て、アルバムはさらに次の地平へと向かいますよね?

「本当はね、ここで終ろう、着地しようと思ってたんだ。っていうか実際、“Blackbird”でアルバムの本編は一回終ってるんだよね」

●やはり。なにせ9曲目での驚きときたらもう、驚かされまくりの本作の中でも最高峰の意外性があったわけですよ。何故ここで弾き語りのアコースティックなの!?という。

「それは、11曲目の“空と踊る男”を、すごくちゃんと聴いて欲しいと思った、その発想から来てるんだよね。その為に、いったん音像さえも変えたい 9曲目の“成長”と10曲目の“32日”はいわゆる一発録りをしたわけ。ただ、実を言えばこの2曲は、最初はどちらか1曲を入れようと思ってたんだけど、そしたらみんなが『2曲ともいい!』って言うから、じゃあ2曲とも入れるか、と(笑)」

●はははは。またそのパターンが出てきましたが、杉本さんを熟知してかつ、ハッキリとモノを言ってくれるメンバーや仲間があえて言うことは、往々にして大正解なわけで。

「だな(笑)。どうしてもさ、想いがあるから……うん。だけん最初は“32日”と“空~”と思ってたんだけど、でも何か足りない気がして、じゃあ“成長”と“空~”か?とも思ったんだが、それもちょっとあんまりかと思って(笑)、結局この3曲が一番おさまりが良かったんだよね。で、その“成長”と“32日”は、いつもの俺の作り方とはちょっと違ってて。っていうのも、通常は音から言葉が導かれる作り方なんやけど、この2曲は言葉が先というかまず言いたいことがあって曲を作るという作り方をしてるんだ」

●珍しいですね。でも、その所為か言葉が心底響いてきますよ、特に“成長”はマジでもう「ほんとそうだよ」と思わず歌に相づちを打ってしまいますもん

「ほんとそうなんだけど、まあ、こんなことを歌う人も余りいないよね(笑)。しかも40才をいいだけ超えた人間が歌う内容じゃねえっっっ!」

●ははははは。でも、40才過ぎても、実はみんな思ってますよね。

「思ってる(笑)。身長はもう伸びないけど、身体はむしろ退化してくばかりだけど、でも色々成長したいって思うもんな。あとさ、最近ぜんぜん良くない韻を踏む系の歌が多いし、逆に巧く韻を踏み過ぎてダジャレになってる人たちも多いじゃん。それに対する俺からの回答が、この『ダー!!』なんだけどさ」

●わかりませんがな。

「わかんないやろ?でもまあ一応あるんだよ。俺の中でのそういう、どうでもいい攻撃が(笑)。それと、この曲に関しては録音も面白かったな。録るその日に矢野くんに譜面渡して、リハっていうよりたった3セッションで本チャン録ったからね」

●はははは。さあそして”32日”、この曲はどこかエコー&ザ・バニーメンやキュアーを彷佛とさせる80年代の風情を持ったアコースティックナンバーで、しんみりとよい曲です。

「おおっ!? お前に反応されるんなら、この曲はほんとにいい曲だな」

●なんですかそれは。

「だってお前、絶対こういうアコースティックとかスローな曲に反応しないやん。つうか遅い曲、嫌いやろ?」

●……まあ、そうですけども。

「俺的には、今作でお前が一番嫌いな曲は多分これだろうと思ってたから、すごく意外だったわけなんだよ、カッカッカ」

●ええー?けど今作、正直いってみんな好きっすよ。前作では1曲、苦手なのあったけど。

「ウルセエっ、それをまだ言うか!(怒)」

●ごめんなさいごめんなさい、ええと、とにかく“32日”は?

「うむ。実はアルバムジャケットを作ってもらっているskullpop川崎という、これまたすさまじいドパンク好きの男がいるんだが、そのドパンク好きが『この曲が一番好きだ』と言い出して、『えっ、そうなの?』と、それはそれで嬉しいのに何故か?複雑な気分に(笑)」

●ははははははははは。まあつまり、パンクスの琴線を揺さぶるアコースティックナンバーなんですよ。そして、最後は大切な“空と踊る男”。

「これは、上田現の曲。書こうと思って書いたわけじゃないけど、やっぱどうしても出るよ。彼に向けて書いてるのか、彼からもらって書いてるのか、自分でもよくわからないけど……」

●この曲は、普通にとてもよい曲だと思いますよ。街中で普通に流れていて欲しいなと思える、普通の人が素敵だと反応してくれそうな、真っ直ぐに胸を撃つ、いい曲。

「だけん、本当はこの曲をリード曲にしたいっていう意見が周りでも多かったんだけど……でもなんか、(この曲が)生まれた理由を、自分の中で上手に整理できない、うまく語れないだろうなっていうのもあったし、そもそもそれをアピールしたくないなっていうのがあって。で、リード曲は全然対極の“ジャンクフード”にしたんだけどね。でも、それでいいと思ってるよ」

●うん。そしてアルバムはこの曲で終るんだけれども、でも、終るというよりは始まるというか、また1曲目に戻って聴きたくなるような爽やかさがあるんですよ。

「メビウスの輪のように、始まりの世界のイントロに戻る。最後のピアノから作るファンタジーが、アルバムの始まりのファンタジーに繋がっていくんだよね」

●はい。というわけで全曲を解説していただきましたが、最後に本作を通しての解説をお願いできますか?

「俺の2回目のソロのスタートって、『PENNY ARCADE』から始まってて、あれはアコースティック的な作品だったわけだけど、でも結局いま自分が着地しているところは、すごくライヴで、ロックで、エネルギッシュな地点だったから、やっぱアルバムもそういうものにしたいと思ったんだよね。そんで、ずっと一緒にやってる有江くん、矢野くんが、曲を作る時から家に結構来てくれて、そこで相談したりしながらセレクションしてったところもあって」

●ああ、バンドですね。

「うん(笑)。で、そのセレクションの中で最後の最後に割り込んできたのが、“Welcom to Wonderland”、“成長”、“32日”。の3曲を、このアルバムからバクッと抜くと?」

●あっ……キレイに纏まる!?

「だろ?(笑)」

●うわ、うわっ!

「実はすごく味を出してる曲なんだよね、この3曲は。それゆえに、結果的にこの3部構成になったっていうのもあるんだ(笑)」

●なんという衝撃の事実!(笑)。でも、アルバムとしては異色のこの3部構成も、杉本恭一として考えればむしろ自然体。という意味で、キレイにまとめなかったが故の杉本さんの真実がここにありますし、もっと簡潔言えば、このアルバムは数ある杉本さんの作品の中でもとりわけ好きですよ、丸ごとそのまんまの杉本さんらしくて。

「ありがとうございます(笑)。自分でもさ、通して聴いた時に『あっ!』と思ったんだ。ほんのちょっとくらい成長してるぞって。ていうのもさ、自分の作品って自分ではなかなか作っている時は客観的に見れないんだけど、でもこの作品にはさ、今までよりは客観的視点が、ちゃんと入れられてるんだよ。だけん、俺を知る人がこれを聴けば、『ああ、杉本恭一だ!』と誰しもが思うと思うんだ。そういう風にまとめることが、やっとできるようになったんだよね」

●セルフ・プロデュースの極意を掴んだ?

「そうかもしれない、少しは(笑)。でさ、俺の作品を聴いてくれる人の中には、LA-PPISCHを大事に思ってくれている人も、analersも好きでいてくれる人もいるやん。今まではどこか、そういうことが辛い?と思う時期もあったんだけど、でも、それも全部飲み込んでやっていこうという気持ちになれたこともデカいと思うんだ」

●徐々に徐々に、そして前作『マグネティズム』の時点からはより具体的に、自分の過去と経験を自分で認めて出してゆこうという流れはありました。それがまた一歩もニ歩も進み、全部をひっくるめた等身大の杉本恭一像を、より鮮やかに描けるようになった。

「そうやね(笑)。でもまあサスガに、“Welcome to Wonderland”みたいな曲は、これが最後かもしれんて思うけど……」

●意義あり! それはダメです、こういうのは永遠に作っていただかないと!!

「あはははははは、そんなにかい!じゃあまあ、出てきたら作ることにするよ、滅多に出てこんとは思うが(笑)」

●お願いしますよ、ほんとにもう。さあそして、リリース後にはElectric GraffitiTourが待っております。

「うん。もちろん新曲をばんばんやりますので、本作を聴いて、どうぞ予習してきてください(笑)」@

インタビュー:中込智子





杉本恭一 Official Web Site