Macka Rocka


6th Album

1. Birth
2. Fantasia
3. RED MONKEY
4. ENCORE
5. Piece of Cake!
6. キャロラインベッキー
7. KY? O....... IC! HI
8. オー・ソレ・ミオ
9. moon
10.Antique Radio

2011.10.26 iLHWA RECORDS ILH-001 ¥2,300(tax in)

Macka Rocka - 杉本恭一

 怪獣のごとき勇猛さとチューリップのような可憐さを併せ持つ男、杉本恭一の、通算6枚目となるソロアルバム『Macka Rocka』が完成した。で、マッカロッカとは何ぞや。摩訶不思議のマカ? それともマカロンのマカ?(そんなわけあるかい)。ジャケットを見れば一目瞭然、まっかっかの真っ赤である。そして本作はまさに、腕に真紅の花を抱きつつ口から紅蓮の炎をゴォーッと吐くが如き、真っ赤なロックが目白押しだったのだ! 
約2年ぶりの新作となる本作について、御大杉本恭一に語ってもらった。
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--まず、前作『エレクトリック・グラフィティー』のおさらいなんですが、前作ではまさかの3部構成が披露され「杉本さん、3枚いっぺんにアルバム作れたんじゃないすか?」「俺を殺す気かぁーっ!」な会話がありました。

「はっはっはっは」

--そして今作。一聴してまず思ったのは、その『エレクトリック・グラフィティー』にあった3要素が見事に合体して1つの世界観を作り上げているという印象だったんです。言わば、サイケとパンクとアコースティックの見事な三位一体化が成された、アグレッシヴなロック・アルバムであると感じたんですが、本人的にはどうなんでしょう?

「まあ、俺にしてはまとまりのいいアルバムだよな(笑)」

--はははは。ちなみに、コンセプト的なものは最初からあったんですか? 本作の制作の流れも含めて教えてください。

「うん。まずね、創作の準備に入った時に……実は普段よりぜんぜん準備してなかったんよ(笑)。まあ、今思うとあえてそうした部分もあったんだけど、今自分が何を表現したいのか、何が出てくるのか、とにかくまっさらのまま創作に入った感じだった。そんで、最初はちょっとね、大人っぽい作品を作ってもいいかなあと少しは思ってたんよ」

--え?

「だけん、最初は!たい(怒)。いや、エンジニアの松本大英と一回打ち合わせした時にそういう話になって、『ペニー・アーケード』で一回ちょろっと?やったけど、その方向もありだよなあと思ったんだよ。それが今年のゴールデンウィーク後ぐらい。マグミとのツアーが終わった後だね。そんでそこから曲を作っていって、当然大人っぽい路線??の曲も作ったんだけど、いざ出来た曲を並べて良いと思うのをセレクトしていったら……なんだよ、ぜんぜんロックじゃん!やっぱり今回やりたかったのはこっちか!という方向に。 」

--ははははははは。

「ていうのが曲の方のスタートね(笑)。それと、今回奥野(ソウルフラワー・ユニオン)と大樹(VOLA&THE ORIENTALMACHINE)との絡みが、創作入ってからのツアーであったから、せっかく奥野と大樹とライヴやるんだったら何か一緒に新曲やれたらいいなっていう、そういう発想の上で作った曲も今作に入ってる」

--なるほど。奥野さん大樹さんとのライヴは凄くカッコよかったですもんね、素直に痺れましたもん。しかも、何気に奥野さんタイプのキーボーディストと一緒にやるのは珍しいというか、杉本さん的にもかなり新鮮だったんじゃないですか?

「奥野はもう、ロック・キーボーディストとして抜群だな、選ぶ音もフレーズも。奥野はクラシックがスタートなキーボーディストじゃないから、そこが逆にあいつの強みになってるっていうか、うん、すごく新鮮だった。んで、そうして曲ができてアレンジが固まっていく中で……でも歌詞がさ、ゼロだったんだよ」

--曲を作っているタイミングが震災から数ヶ月なわけですから、今まで以上に歌詞作りが大変だった部分はありそうですね。どうしたって頭がそこにいっちゃうでしょうし。でも、そんな中にあっても、杉本さんはあえて、そうした方向へは余り行かず……。

「いや、行くよ。今回実は、相当あるんよ」

--ええっ!?

「(苦笑)あるけど、かなりあるんだけど……最初はそれがモロに出ちゃってる歌詞とかがあって、自分で嫌になっちゃってさ。俺の役目ってそこじゃないだろ?っていうかさ。他の人が書いたり描けたりするような言葉を、俺が書いたり描いたりする必要はないって、誰に言われたわけでもないのに勝手にそう思ってる部分があるんよ、俺は。だけん、最終的にこういう形になったっていうだけで、歌詞の中にはやっぱり影響が色濃くあるよ。ただ、その部分に気付いても気付かなくても別にいい(笑)」

--すんませんすんません。っていうか何か負けたような気が凄くします。というのも今作、後ほど1曲1曲についても詳しく聞きますが、私にとって妙に不思議な歌詞というか、謎がある歌詞が結構多く感じてたんですよ。多分そういうところに今の話が繋がってくるんですよね。

「そうなのかもね(笑)」

--ではここからその1曲1曲を解説していただきたいんですが、まず冒頭“Birth”は、始まりと、そして本作はロックなアルバムであることを表明するかのようなインストナンバー。

「これはね、次の2曲目の“Fantasia”が(アルバムの中で)浮いていくのはやだなと思って、それで何曲か作った内の1つで、あえてインタールードっぽい感じにした。最初はJOYとかHOPEというイメージで創作してたんだけど、矢野チルドレンの歌声が入ったら「これはBirthだ!誕生ほど素晴らしいもんはねえな」て事でこうなりましました。矢野チルドレンは複雑な和音コーラスの中ほんにヨカ仕事してくれました。それと前作の『エレクトリック・グラフィティー』でこれまでの流れを一回〆て、またここから始まりますよという感じかね。凄くスタートっぽい感じの音楽だと思う。」

--ですね。で、そこから続く“Fantasia”。曲は非常にアッパーかつサイケデリックでかっこいい!歌詞も非常に不思議な感じがありました。意味よりもイメージというか。

「なんだろね、こういう歌って凄く多いんよ、自分の歌で。凄く幻想的な景色な中に居る感覚なんだけどね。まあ、変わり者……我々みたいな人たちのことを歌った歌で、結局集約してるのは最後の『ここに立ってんだ』っていう部分。まあ、ステージの上に立ってるっていう意味もあるし、それ以外の意味も強くある。とにかく潰されずに、ちゃんと立ってんだ!っていう。だけん、他人から見るとバカバカしいし、もういいだろうもうダメだろうって局面でも立ってんだよ(笑)。」

--そういえばステージの上に立つ、という決意表明は4曲目の“ENCORE” でも成されていますよね?

「そっちは分かりやすいぐらいそれがあるね(笑)。っていうか、分かりやす過ぎんじゃねえかという不安があって……実はボツ候補NO1だったんだよ“ENCORE”は。いや、全然分かりやすくてもいいんだけどね… 俺の昔から変わらん理想が、聴き手に絵を観る時の様にたくさん自由な想像力を与えたい、ていうのがあるんよ。それをメロディーとアレンジと音色と言葉全部でやりたいんよ。だからたまに自分にしてはストレートな物が出てくると完成まで自分で判断を待ったりする曲もある。もちろんボツにせずに発表してるのはそういうのを最終的にクリアしとるけんばってんがね。」

--あ、そうだ。話が前後しますが、今作のタイトル『Macka Rocka』は、真っ赤に掛けているじゃないですか。これはなぜだったんですか?

「ホームページのDiaryにも書いたんだけど、普段曲を作ってる時とか歌詞を作ってる時って、俺の中では非常に原色なんよ。基本的に総天然色オールカラーな感じやね。でも今回さ、出来てくる曲出来てくる曲、これがもうどの曲も赤ばっかでさ。気がついたら『うわ、また赤で書いてる!』っていう。まあ、それだけに言葉としては3曲目の“RED MONKEY”以外はなるべく赤って言葉を使わないようにしたんだけど、アルバムとしては赤いアルバムなんだなっていう自覚が俺の中であったんだ。んで、『なんで赤なんだろう?』と我ながら思うわけじゃん。で、そこには2011年の背景がもちろんあるだろうし、そもそも赤っていうのは、日本では太陽の色のことを赤だと表現するやん。だから、太陽の赤だったり、危険を知らせる赤だったり、振り切れていたいっていう気持ちのレベルメーターの赤だったり。血もそうだし、大気散乱で赤く染まった月や夕焼けもそうだし……とにかくいっぱいあったんだよ赤が。でもさ、単に赤って言葉を使うと、そこには政治的な意味合いだったり、あと、あんまりよくない意味での赤っていうのもあるやん?」

--赤字とかっすね(笑)。

「あははは(笑)。まあ他にも色々イメージよくないものも多いからね。ばってん日本語での赤って言葉の語源は『あかるい』っていうのが俺的には最高だったんよ。さらに赤を題材としたタイトルを考えてた時に、ちょうど草間彌生っていう前衛芸術家のドキュメントを見てたら、そこでその人が真っ赤っていう言葉を口にしたんよ。『先生、今日はどの色から始めますか?』『真っ赤!』って。で、何だかそれが凄くカッコ良く聞こえて(笑)」

--はははは。でも実際、真っ赤っていう言葉の響きは赤を表現する言葉として最高ですね。情熱的であると同時に、どこか可愛らしくもある。ということで、話を戻しまして3曲目は“RED MONKEY”。

「基本的には、俺がずっとやってる、一見ふざけたような感じに聞こえるタイプのナンバーだね。ケツに火いついたり、いろんなことの中で、全身赤くなるほど怒り狂った猿はどうするんだ?っていう」

--ギャグ漫画というか風刺漫画のような、怒りをあえてユーモアに転換するナンセンスギャグ的展開がある。これ、杉本さんの得意技ですよね。

「たしかに歌詞はこれが今作で一番時間かかんなかった(笑)」

--実は楽曲的にもそうじゃありませんか?(笑)

「はっはっは、曲は普通くらいだったかね。でも今回はね、演奏が本当素晴らしいんだよ、なにせ自分でも驚いちゃったぐらい素晴らしい!(笑)」

--一応突っ込みますが、いつも素晴らしいですよ(笑)。ただでもこの曲はとにかくメンバー全員が非常に楽しそうに演奏しているのが手に取るように分かります。特に有江さん、超すげえ。

「ベースソロかっこいいよね! んで、聴いてるだけで何か気持ちがどんどん上がってくるナンバーになったと思う。元気付けようとか勇気つけようとかわざわざ言葉にせんでも、こういった歌の方がそういう力があるて思うし、単純に俺はこっちの方が最高だと思っとる」

--はい!で、4曲目は先ほどなぜかボツ候補の話題もあった“ENCORE”。楽曲は80sNWというかテクノ・ミーツ・パンクロックを、杉本特有のメロとリズムで纏め上げたという……ぶっちゃけコレがなんでボツ候補だったのか、さっぱり分からんという非常にライヴで映えそうなナンバーです。

「うん、今は俺も何でボツ候補だったのか分からん(笑)。そんで実はね、この曲があることによって、本作が非常にロックっぽく聞こえる部分があるんよ。コレが抜けると、意外にいつもの杉本恭一的アンバランス・モードな感じに聴こえると思うんだ。多分ね」

--おおー、意外にコレがまとめてるんですね!?? で、歌詞は非常に、今作の中でも筆頭というぐらい分かりやすい決意表明がある。それは、どんだけ年を取ろうが経験を積み重ねようが、まだ全然足らないしやり続けてやるぞ!という気持ちを、怪獣のような馬力で綴っており。ただこの曲、“ENCORE”ってタイトルですが、アンコールでは使えないというか使ったら危険っすね(笑)。

「そんな事より問題はだな、洋一がこの単語をアンコールと読めんかったことだな(笑)。」

--(笑)。そして5曲目“Piece of cake!”。ライツ!というピストルズ並みの煽りから始まる、ガレージ風味の8ビートが気持ちいいストレート・ナンバーです。

「これがまた、ストレートに聞こえるくせに実は演奏が面倒だという俺に多いパターンの曲やな(笑)」

--あっ、そうなんすか? なにせリフレインされるタイトルが「容易な」という意味を持つ英語の慣用句だったのもあって、さらにスコーンっと突き抜けて聴こえたんっすが、ただこの曲も実は歌詞に謎があったんっすよね。特に、唐突に出てくるこの「ハマカゼ」という言葉が……。

「ハマカゼを知らんとは、ぬしゃーバカか!!(大怒)。かの有名な、甲子園球場に吹く海から陸に向かって吹く風のことだろうがぁぁぁぁぁぁぁっ!」

--あー、タイガースネタっすか。

「(聞いてない)ライトからレフトに向かって吹くこの強烈な風は、左バッターの長打を阻む魔の風なわけだが、そんな逆風をものともせずにホームランをぶち込んでやれという、むしろそんな状況にあってもそんなん楽勝だぜ!という、コレは非常に重要なメッセージであるわけで……」

--杉本さんは本当、ブレませんねえ。

「うん」

--さて、お次は6曲目“キャロラインベッキー”。この曲は“ウェルカム・トウ・ワンダーランド”の系譜を感じさせるスカ・ナンバーにして、“ダミー・リリック”の遊び心ある歌詞感覚をも取り入れた、楽曲も歌詞もほんと大好きなナンバーっす。

「うん。ただ、あんまりスカの部分をトリオアレンジではあえて意識してないんだけどね。歌詞に関しても最初はもろ原発テーマな歌だったんだけど、それだとこんな楽しい曲なのにちっとも楽しく聞こえんから“ダミー・リリック”的な破壊をしていった、それでも足りんかったからさらにタイトルまで大破壊して完成した」

--そして何気に、天才バカボンっすよね。

「バカボンだな(笑)。ちなみにタイトルの意味、分かるか?」

--正直、キャロライン洋子とベッキーしか出てこないんっすが……。

「お前キャロライン洋子出てくるってすげーね!まさにそれなんだよ、要は昭和と平成を代表するハーフタレントの名前をくっつけただけという、つまりタイトルの方に意味は全くない(笑)」

--はははは。そして7曲目は、まさかの自分の名前がタイトルな“KY? O…IC! H?I”。アナログ盤ならB面の1曲目か?という、非常にリズミカルなどかちゃかナンバー。

「自分の名前を使って『これかい!』っていう曲だよな(笑)。でもまあ我ながら、いい響きの名前だ!これはドラムの矢野君と一緒に生活音を含めて色んなビートを作っていって遊ばせてもらった」

--で、8曲目“オー・ソレ・ミオ”なんですが、この曲と次の“moon”が、実は今回個人的に最も好きなナンバーだったんですよ、この並びはほんと鳥肌が立つほど素晴らしかった。

「おおー。で、まず“オー・ソレ・ミオ”はね、実はかなり実験的なことをやってるんだよ。右ではskaバンド、左ではパンクなロックバンド、真ん中ではアコースティックなバンド、全くジャンルの違うバンド達が全く違うことをやって、邪魔しあったり寄り添ったりていう掛け合いをやってる構成になってるんだ。歌詞的な部分でのステレオ感での掛け合いは、昔“イエロー“でやったことがあったけど、演奏でやったのは始めてだったから、えらい大変だったよ」

--マジすか? つうかそれ、とんでもなくないすか? どうやってやったんですか?

「譜面も3つあって別々にレコーディングをした。それを合体させたんだけど、有江くんも矢野君も最初デモテープ聞いた時はかなりテンパってたけど、最終的には面白がってノリノリでやってくれたよ」

--そんな取り組みがあったんですね!?でも“オー・ソレ・ミオ”は、あくまでポップに向かって集束する、一楽曲として非常に印象的なナンバーになっており、単なる実験には決して終わらないナンバーというか、実験がポップに生かされた非常に意欲的作品になっている点が圧巻です。また、アッパーな中で一見しっとりとしたメロディーを持ちながらも、どこか岡本太郎の精神が乗り移ったかのような爆発感がある。特にサビの部分はメチャクチャ盛り上がります!

「岡本太郎の精神とはすげー褒め言葉だな!」

--そして“moon”、この曲の素晴らしさと言ったら……尋常じゃなく最高でした。

「ありがとう(笑)。実は今回、この曲について言われることがやたら多いんよ」

--あ、やっぱり?「俺としちゃ、意外だったんだけどね。つうか実はこの曲、ボツ候補NO2だったという。ミックスダウンが終わって、それでも気に入らなかったらボツろうと思ってた曲だったんだよ」

--杉本さんのボツの感覚、どっかおかしいんじゃないですかね。

「あははは、俺もそう思う(笑)」

--この、そっと傍にいる感じ、寄り添う感じの歌ときたらもう。

「その割にはこの人(歌詞の中の主人公)は孤独だけどね。一人じゃん、この人」

--そこがまたいいんです。この、単に悲しいとか楽しいとかじゃないフラットな感覚、だけどフッと笑みを浮かべる感じの、日常の中でのさりげない切なさと優しさ!私はゆっくり目の曲にはほぼ反応しないんっすが、これは別!!しかもですね、「錆びた空き缶が転がる」という下りでは映像がぼーん!でマジ悶絶しました、ほんと凄い。

「まさか中込にまで褒められるとは思わんかったな(笑)。この曲はほんと、歌詞が納得いかなくて何回も何回も何回も書き直したんだけど、ボツにせんでよかったな」

--そうだったんですね。でもほんとシングルで切るべきですこれは。さあそしてオーラスは“Antique Radio”。

「この曲は結構昔に作ったやつでその時のデモで使ってたギターの音もそのまま入れてるのもある。4、5年前の自分とセッションしてるみたいでおもしろかった。歌詞は今回のタイミングで書いたから、未来に対する警告というか、危機感が、今作の中では割と分かりやすくある歌だな。最後の『なびかない旗』にそれは集約されるな、昭和な世界、アポロの疑惑にもひっかけとるけど」

--あ、そうか!とにかく本作はサイケに始まりサイケで終わる並びにもなっています。また、この曲で印象的なのは、あえて余韻を持たず、スパッと終わるところ。そしてそれが逆に、もう1度1曲目を頭から聴きたくなるような効果をもたらしている。要は、エンドレス状態で聴けるアルバムにもなっているという。

「そうか? そんならよしとしよう!(笑)」@

インタビュー:中込智子






杉本恭一 Official Web Site