ピクチャーミュージック


1st Album

1. INEMURI
2. APPLE
3. TACO
4. RESET
5. アラビア
6. イエロー~見解の相違
7. カミナリ族
8. えんとつ
9. ブラブラ
10. ピアノ
11. HAPPY
12. チョコレート
13. LOVE
14. MaMa

1996.1.24 VICTOR ENTERTAINMENT,INC. VICL-62924 ¥2,500(tax in)

 杉本恭一はレピッシュのリーダーだ。「パヤパヤ」「リックサック」「マジックブルーケース」も彼の作品であり、“レピッシュ”と聞いて人々がイメージするものの多くは彼に負うところが大きい。例えば、彼と両翼を成すもうひとりのコンポーザー・上田現の資質は“人々がイメージするレピッシュ”とは明らかに異質のもので、それがバンドの深みにつながると同時に、ソロ・ワールドを構築しやすくしている。しかし恭一にその図式は当てはまらない。自分を客観視してイメージの切り売りができるほど器用な男ではなく、そのときそのときで嘘のないものをレピッシュに提供し続けてきた彼が、ソロの名のもとに果たして何を出してくるのか。ついにその重い腰を上げた半年後、ようやく届いた完成品は、「言葉は不自由だけど絵は自由」とかねてから言っていた彼ならではの、『ピクチャーミュージック』というタイトルがついていた。
 古今東西、アートスクール出身のミュージシャンは数多いが、恭一もそのひとりだ。著名なイラストレーターからも画才を認められている彼は、色を塗るように音を選ぶ。そうして作り上げられた楽曲は、まるで絵が暴れ出したかのようだ。投影されているのは間違いなくむきだしの杉本恭一であり、持ち前のポップ感とシュールなファンタジー性が溶け合って、本人以外には複製不可能のサイケデリックな世界が描きだされている。旺盛な遊び心もあちこちに顔を覗かせているが、ギタリストのソロにありがちなプレイヤー・エゴは微塵もない。あるのはアーティスト・エゴのみで、感情や妄想がいたいけな暴走を繰り広げる。パワーとエネルギー全開の歌があるかと思えば、センシティヴな一面も見せ、特に「INEMURI」での意思表明、「LOVE」での愛情表現には胸がつまる。
 もしかしたらこのアルバムを聴いて「レピッシュとどこが違うの?」と言う人もいるかもしれない。いくら個人的な作品とはいえ自分を慰めるためのものではなく、エンターテインメントである以上、そういう感想もあっていいはずだ(正しいエンターテインメント=受け手の自由な解釈を許容するもの)。それでも私はここに収められた14曲に、取材する側される側として長年つきあってきた杉本恭一そのものを見る。ぽっかりと口を開けた大きな“穴”を体内に抱え、そこに落ちそうになる彼を音楽が引き止めていることがわかってしまう。無類の面倒くさがりで、バカ話はうまいのに作品を語るのは大の苦手で、ときどき内部の混沌を持て余しては途方に暮れる、31歳の九州男児。ありったけの喜怒哀楽をこめたこの『ピクチャーミュージック』で自分自身を世に響かせることによって、何を終わらせ、何を始めるつもりなのか。傷を負ったリアルな音が耳の奥で鳴り続ける。それをどう癒すかは聴き手次第だ。
                          佐々木美夏 (1995年12月記)






杉本恭一 Official Web Site