Marking Point

 世代によって少し差はあるのかもしれないが、30年前の中学生にとってロックはこの上なく特別なものであり、全幅の信頼を寄せるに足るものであった。出来る出来ない、強い弱い、速い遅い、などの相対的な評価が及ばない、絶対的な世界。それは将来”平凡な幸せに安穏としない自分”になるために必要なアイテムであり、武器であり、思想だった。それほど、社会は戦うべき敵に満ちていた。
 月日は流れ、私たちは充分すぎるほど大人になった。いまだに下北沢の飲み屋で朝を迎えてしまうこともままある生活に苦笑いをしつつ、それでも踏み切りで足を止めるときにふと心をよぎることは、昔と明らかに違う。今日も明日も、すべての人の平凡な毎日が続きますように。社会を守ってきたシンプルなルールが力を失いませんように。
 平凡で大切な、ラブ&ピース。恭一は「10年前の『ピクチャーミュージック』のときでもまだ”あなたは平凡”って攻撃していたのになぁ」と笑い、私はユーミンの「街角のペシミスト」にある”だけど平凡だけはいやよ”という1行が大好きだった頃を懐かしく想う。ロックは、今も恭一にとって最強のアイテムだ。ギターを握り、鳴らすだけで、確固たる絶対感が立ち上がる。イマジネーションの飛距離は果てしなく、桃源郷さえも目の前に浮かぶ。『ピクチャーミュージック』『PENNY ARCADE』とイメージ重視のタイトルをつけた前2作とは違い、初めて”印をつける”という意思が前面に出されたこの『Marking Point』(ジャケットに顔を出したのも初だ!)が描きだすものは、楽しくも切実で、慣れ親しんでいながら新しい。
 かつては退屈の象徴だった穏やかな午後。あのとき手にしたロックは錆びることなく、私たちをまだどこかへ連れて行こうとする。足跡がひとつ。ふたつ。ここにもひとつ。非凡な恭一が望む平凡は、その先へと私たちをいざなって止まない。
                           佐々木美夏   


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